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東京地方裁判所 平成6年(ワ)11199号 判決

原告

野田敏明

被告

今宮林造

主文

一  被告は原告に対し、一三八万四二三一円及び内金一二六万四二三一円に対する平成六年二月一六日から、内金一二万円に対する平成六年六月二六日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、二六九万三〇二四円及び二四五万三〇二四円に対する平成六年二月一六日から、内金二四万円に対する平成六年六月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告がその所有車両に被告運転車両が衝突したとして、その損害賠償として修理費等を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

日時 平成六年二月一六日 午後四時五分ころ

場所 東京都豊島区南大塚二丁目一八番四号 路上付近

加害車 いすず・エルフ(青)足立四四え五一四八

被害車 一九六六年製フオード・マスタング・コンバーチブル練馬三三ね三八九〇

態様 被告が加害車を運転して後退中、原告が所有する被害車に接触した。

2  責任原因

被告は、加害車を運転し後進させるにあたり、後方を注視し安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と後進した過失により本件事故を発生させた。したがつて、被告は民法七〇九条に基づき本件事故から発生した損害を賠償すべき義務がある。

二  争点

1  事故態様

(一) 原告

加害車の左後輪、左後輪ホイールが被害車のバンパーに接触し続け、その衝撃で、被害車は上下に揺れ、加害車のアオリか荷紐用フツクが被害車の左ライト横とボンネツトに衝突した。そして、加害車の後輪ホイール内に被害車の中央よりバンパー突起部が食い込む形で加害車は停車した。

(二) 被告

加害車の左後輪泥除けが被害車の左前バンパーに接触しただけである。

2  損害

(一) 原告

(1) 修理費 八二万四三〇三円

(2) 評価損 三二万九七二一円

(3) 代車料 一〇九万九〇〇〇円

(4) その他(車両牽引費等) 二〇万円

(5) 弁護士費用 二四万円

(二) 被告

損害は不知。

本件事故態様からすると左ヘツドライトなどの塗装の剥離は生ずることはない。

バンパーの効用は車のフレームの保護が目的であるが、被害車のバンパーは正常な状態にあり、衝突の衝撃がフレームにまで及んで、その歪みが生じることはない。

第三争点に対する判断

一  事故態様

1  証拠(甲六、七、八の1、2、九、一二ないし一四、一七、乙一ないし四、七の1、2、八、原告本人、被告本人)によると次の事実が認められる。

(一) 本件事故当日、原告は被害車の前部を南側に向けて、自宅のカーポートで洗車していた。その場所には木の植え込みがあつたため、原告は被害車を自宅前の幅二・八メートル程度(側溝部分を含む。)の東西に通じる道路(本件道路)に対して少し斜めにおき、被害車のバンパー部分は多少道路にはみ出していた(別紙図面1)。また、右カーポート部分は本件道路より約一〇センチメートル高かつた。

(二) 本件事故当日、被告は加害車を運転して原告宅の東側の工事現場に資材を届けた。被告は加害車から資材を降ろした後に、加害車を運転して本件道路を西側に後退していつた。

原告は洗車を終え、被害車の屋根にワツクスをかけるため、その左前輪の横あたりに立つていた。

(三) 後退する加害車の右後方から、本件道路を自転車を押しながら東側に進行してくる人がいたので、被告は被害車の五〇センチメートル手前で一旦停止し、その人をやり過ごした。加害車は一〇ないし一五秒停止した後、時速二、三キロメートル程度の速度で五〇センチメートル程度後退した。

(四) 被告は、加害車のタイヤが何かに当たつたようなコトンという音がしたので直ぐに加害車を停止させた。

加害車後部のゴム製突起物(別紙図面2記載A1部分)が、被害車のヘツドライトドア部分(別紙図面3記載A2部分)に接触し、加害車の左後輪(別紙図面2記載B1部分)が被害車のバンパー(別紙図面3記載B2部分)にぶつかり、加害車の左後輪は被害車のバンパーをこするようにして後退した。

加害車は左側後部のフツク(別紙図面2記載C1部分)の一つが、被害車のボンネツトの先端(フロントフード部分、別紙図面3記載C2部分)に当たつて停止した。

(五) 本件事故により、被害車の左ヘツドライトドアの左端の一部(甲七の二頁)、フロントフードの左端(同号証の三頁)の塗装が剥離し、バンパーに微細な傷が付いて、バンパー全体にわずかな歪みが生じた。

2  被告は加害車の左後輪泥除けが被害車の左前バンパーに接触しただけであると主張するが、泥除けの接触だけであれば加害車の運転手はその接触自体に気がつかない可能性が高いといえるところ、被告本人はタイヤが何かに当たつたようなコトンという音がしたことを認めており(乙二)、被告自身が泥除けの接触以上の衝撃を感じたことが窺え、被告の右主張は採用できない。

そして、証拠(甲一三、一四、乙七の1、2、八)によると、被害車のヘツドライトドア部分(別紙図面3記載A2部分)の高さは約六九・五センチメートルで、本件道路面からは約七九・五センチメートルの高さとなること、加害車後部のゴム製突起物(別紙図面2記載A1部分)は、加害車の車体から約三センチメートル程度はみ出し、その上面の地上高は約八二・五センチメートルで、その底面の地上高は約七六・五センチメートルであること、被害車のバンパー(別紙図面3記載B2部分)の高さは約四六センチメートルであり、本件道路面からは約五六センチメートルの高さとなること、加害車の左後輪(別紙図面2記載B1部分)の上部の地上高は約七五センチメートルで、その中心の地上高は約三八センチメートルであること、被害車のボンネツトの先端(フロントフード部分、別紙図面3記載C2部分)の高さは約七四センチメートルで、本件道路面からは約八四センチメートルの高さとなること、加害車の左側後部のフツク(別紙図面2記載C1部分)は加害車の車体から約一ないし一・五センチメートル程度はみ出し、その上端の地上高は約八八センチメートル、その下端の地上高は約八二センチメートルであることがそれぞれ認められ、被害車と加害車の接触部位の高さがほぼ符号しており、被害車の左前輪の横あたりに立つていた原告の目撃状況に不自然な点はない。

二  損害

1  修理費 五〇万四二三一円

原告は修理費として、八二万四三〇三円を請求し、甲三、一〇にはこれに沿う記載がある。

たしかに、フロントバンパー、フロントバンパーガード、ボンネツトモールについては、前記認定のとおり本件事故により損傷を受けたことが認められるから、これらを取り替える必要があり、それに伴うシヨートパーツの取り替え、各部分の脱着、修正などの作業が必要となることが認められる。

しかし、原告が本件事故により損傷が及んでいると主張するフレーム等に関する修理(左フロントフレーム修正、左フロントフレーム計測、左サスペンシヨン脱着、左サスペンシヨンアライメント調整)については、前記認定の被害車の塗装の剥離など外面上の損傷の程度、加害車の速度及び移動距離等から推察される衝突の衝撃の程度を勘案すると、被害車の内部的な構成部分であるフレーム等に本件事故の衝撃が伝わつて、それらに修理が必要なほどの損傷が生じたとは認めることはできない。

また、原告は、フロントフードの全面塗装が必要であると主張し、その根拠として部分塗装ではエンジンの熱によつて塗装の境界面が目立つようになるというが、フロントフードの塗装剥離部分がその全体の中で占める面積的な割合はわずかであること、その部分がその先端に限られていることを考慮すると、仮に塗装境界が識別できるものとしても、一般的にはかなり注意深く観察しなければ認識できない程度に止まるものということができ、フロントフードの全面塗装は本件事故と相当因果関係がある損害と認めることはできない。

さらに、ブレーキオイルについては、これが損害となる理由が不明であり、その必要性が認められない。

そうすると、原告の主張する消費税を除く修理費のうち部品代二〇万〇五四五円、工賃六〇万七〇〇〇円の合計八〇万七五四五円から、ブレーキオイル二〇〇〇円、フロントフレーム修正等一二万円、左サスペンシヨン脱着三万八〇〇〇円、左サスペンシヨンアライメント調整四万五〇〇〇円、鈑金箇所ペイント二五万円を控除すると三五万二五四五円となる。塗装代についてはフロントフードの一部塗装の場合の相当な修理費用については的確な資料がないが、被告の保険会社のアジヤスターが作成したと認められる「交換部品および工賃明細」(甲四、証人石田)にはペイント代として一三万七〇〇〇円の記載があるのでその数値を塗装費用と認めることにしてこれを加えると四八万九五四五円となり、これに消費税三パーセントを加えた五〇万四二三一円が、本件事故と因果関係のある修理費用であると認める。

2  評価損 五万円

車両は事故の履歴があつたという事由で、価値が低下することは経験上明らかであり、それも事故と因果関係のある損害と認めることができるが、本件においては被害車の損傷の程度に鑑みると修理後においても機能障害が残るとはいえないから、修理費の一〇パーセントをもつて相当な評価損と認める。

3  代車料 六八万円

証拠(甲五、六、一〇、一六、原告本人)によると、原告はモータージヤーナリストとして執筆活動をし、関係各誌に連載が掲載されていること、海外のモータースポーツ(F1グランプリなど)の取材、耐久色の濃いラリー(シルクロードラリーなど)への参戦、取材も行い、高級輸入車の販売会社の経営もしていること、被害車は一九六六年製のフオード・マスタング・コンバーチブルであり、これを平成元年に購入したこと、被害車の修理は平成六年一一月五日から同年一二月五日まで三一日間を要したこと、その間原告はコルベツトコンバーチブル、シボレーカマロコンバーチブルを借り受けたこと、右の料金は最初の一日が五万五〇〇〇円、その後は一日三万六〇〇〇円であることが認められる。

右認定のとおりの原告の職業に鑑みると被害車の代車としてコルベツトコンバーチブルなどを使用したことをあながち不当ということはできないものの、被害車の修理費用の中には本件事故と因果関係のない修理も含まれており、三一日間代車が必要であつたと認めることはできない。そこで、前記認定のとおり修理費用は原告の請求額の約六〇パーセントが認められるから、代車料もその約六〇パーセントを本件事故と因果関係のある代車料と認めるのが相当である。

(55,000+36,000×30)×(50÷83)≒680,000

4  牽引費用 三万円

甲一〇により牽引費用は三万円と認められ、その他の費用は認めるに足る証拠がない。

5  弁護士費用 一二万円

原告が本件訴訟の提起、遂行を原告代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理経緯及び認容額等の諸事情に鑑みると、原告の本件訴訟遂行に要した弁護士費用は、原告に一二万円を認めるのが相当である。

6  合計

以上の合計は一三八万四二三一円である。

三  まとめ

原告の請求は被告に対し、一三八万四二三一円及び内金一二六万四二三一円に対する本件事故の日である平成六年二月一六日から、内金一二万円に対する本件訴状送達の日の翌日である平成六年六月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 竹内純一)

別紙図面1

別紙図面2

別紙図面3

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